Synology DS723を導入した直後、あるいはしばらく運用を続けてから「ファイルのコピーがやけに遅い」「バックアップが深夜まで終わらない」と感じる場面に出くわすことがある。このとき、多くの人は「NASの設定が悪いのか」「ネットワークが詰まっているのか」「それともディスクが遅いのか」と迷い始める。
DS723に限らず、NASの転送速度が期待値を下回る原因は、大きく分けてネットワーク層、ディスク層、NAS本体層の三つに分類できる。しかし、闇雲に設定を変更したり、高価なケーブルやスイッチを買い足したりする前に、まずは「何を固定し、何を一つだけ変えるか」を決めて検証を始めることが重要だ。
ここでは、DS723で実際に報告されている「外部ドライブへのバックアップが極端に遅い」という相談を起点に、ネットワークとディスクのどちらがボトルネックになっているかを切り分ける手順を、検証メモのように追っていく。
比較の軸を先に決める:何を固定し、何を変えるか
DS723の転送速度を調べるとき、最初に決めるべきは「比較の軸」である。同じファイルを同じプロトコルで転送しても、条件が一つ違うだけで結果は大きく変わる。
たとえば、次のような条件を固定してテストを始める。
- テストファイル:10GBの単一ファイル(小さなファイル多数だと結果が変わるため)
- 転送プロトコル:SMB(Windows標準のファイル共有)
- 時間帯:ネットワーク負荷の低い深夜
この状態で、DS723の内蔵ドライブ間コピー、PCからDS723への書き込み、DS723からPCへの読み出し、そして外部USBドライブへのバックアップを順に実行する。それぞれの速度をメモし、どの経路で遅くなるかを観察する。
重要なのは、一度に複数の設定を変えないことだ。ルーターの設定とケーブルを同時に交換して速度が改善しても、どちらが効いたのか分からなくなる。
先に外せる原因を整理する:ネットワーク層の確認
DS723のネットワーク周りで、比較的簡単に確認・交換できる要素はいくつかある。
ケーブルと接続規格の確認
DS723は背面に1GbEポートを2基備えている。リンク速度が1Gbpsで確立しているかどうかは、DSMのコントロールパネル → ネットワーク → ネットワークインターフェースで確認できる。ここが100Mbpsになっている場合、ケーブルの断線や接触不良、あるいはスイッチ側のポートが100Mbpsでしかリンクしない状態が考えられる。
LANケーブルがCat5e以上であれば、規格上は1Gbpsでリンクできる。しかし、経年劣化やコネクタの摩耗で速度が出なくなることもある。DS723とPCを同じスイッチに接続している場合は、ケーブルを交換して再テストする価値がある。
スイッチやルーターのボトルネック
家庭内ネットワークで意外と見落とされるのが、間に挟まっているスイッチングハブの性能だ。1Gbps対応と書かれていても、すべてのポートで同時に1Gbpsを処理できるとは限らない。また、ルーターに内蔵されたスイッチ部分は、ルーティング処理の負荷が高いとスループットが落ちることがある。
DS723とPCを同一のスイッチに接続し、他の機器を一時的にすべて外してテストすると、スイッチが原因かどうかを切り分けやすい。
ジャンボフレームの有無
ジャンボフレームは、1回の通信で送るデータ量を増やす機能で、大容量ファイルの転送効率を上げることがある。ただし、経路上のすべての機器が同じMTU値に対応していないと、パケット分割が発生して逆に遅くなる。
DS723側の設定は、DSMのコントロールパネル → ネットワーク → ネットワークインターフェース → 編集 → IPv4 → MTU値で変更できる。PC側のネットワークアダプタ設定も合わせて変更し、スイッチがジャンボフレームに対応しているか確認する必要がある。
ディスク層のボトルネックを探す:HDD/SSDの状態とRAID構成
ネットワーク層に問題が見つからない場合、次はディスク層に目を向ける。
HDD/SSD互換性とメーカー推奨条件
DS723は2ベイモデルで、3.5インチSATA HDDまたは2.5インチSATA SSDを搭載できる。Synologyは公式互換性リストを公開しており、動作確認済みのドライブであれば、少なくとも互換性による速度低下は避けられる。
互換性リストは、Synologyのサポートページでモデル名を指定して確認できるSynology製品互換性リスト。ここに掲載されていないドライブを使っている場合、認識はしても速度が出ない、あるいはエラーが頻発する可能性がある。
また、NAS向けHDDにはCMRとSMRの二つの記録方式がある。SMR方式のドライブは、ランダム書き込みやRAID再構築時に極端に遅くなることが知られている。WD Redシリーズでは、従来の無印WD Red(WDx0EFAX)がSMRで、WD Red Plus(WDx0EFZZ)がCMRである。購入時に型番を確認し、SMRドライブを避けることが、安定した転送速度を得るための第一歩となる。
RAID構成とバックアップは別物
DS723では、RAID 0(ストライピング)またはRAID 1(ミラーリング)、そしてSynology独自のSHR(Synology Hybrid RAID)を選択できる。RAID 0は読み書き速度が向上するが、1台故障で全データが失われる。RAID 1は冗長性はあるが、書き込み速度は単体ドライブと変わらない。
「RAIDを組んでいるからバックアップは大丈夫」と考えていると、誤操作やランサムウェアによる暗号化でデータを失うリスクがある。RAIDはあくまで可用性を高める仕組みであり、バックアップとは別に設計する必要がある。
外部USBドライブへのバックアップが遅い場合、バックアップ元のボリュームがRAID 1で構成されていると、読み出し速度は単体ドライブの性能に依存する。バックアップ先のUSBドライブがSMR方式の外付けHDDだと、書き込み速度が大幅に低下することも多い。
SMART情報とドライブの健康状態
DSMのストレージマネージャーでは、各ドライブのSMART情報を確認できる。特に以下の項目に注意する。
- リードエラーレート
- シークエラーレート
- リアロケートセクタ数
- 現在保留中のセクタ数
これらの値が閾値を超えている場合、ドライブの劣化が進んでおり、読み書き速度が低下している可能性が高い。そのまま使い続けると、突然の故障につながることもあるため、早めの交換を検討する。
DSMのリソースモニターとログから負荷を読む
DS723の転送速度が遅いとき、DSMのリソースモニターは強力な手がかりを提供してくれる。
CPUとメモリの使用率
DS723はAMD Ryzen R1600(2コア4スレッド)を搭載し、標準で2GBのメモリを備える。ファイル転送だけならCPU使用率が100%に張り付くことは稀だが、複数のアプリケーション(Surveillance Station、Docker、Virtual Machine Managerなど)を同時に動かしていると、CPUやメモリが逼迫して転送速度に影響することがある。
リソースモニターでCPU使用率が常に高い状態が続いているなら、不要なパッケージを停止するか、メモリを増設することを検討する。DS723は公式には最大32GB(16GB×2)のメモリをサポートしており、Synology純正メモリ「D4NESO-2666-4G」のほか、サードパーティ製メモリも使用できるが、純正外メモリは保証対象外となる点に注意が必要だDS723+ 製品マニュアル。
ディスク使用率とI/O待ち
リソースモニターの「ディスク」タブでは、各ボリュームの使用率とI/O待ち時間を確認できる。使用率が100%近く張り付いている場合、ディスクがボトルネックになっている可能性が高い。
また、DSMの「ログセンター」では、システムログや接続ログを確認できる。ディスクI/Oエラーやネットワークリンクダウンの記録がないかチェックする。特定の時間帯だけ速度が落ちるなら、スケジュールタスク(ウイルススキャン、インデックス作成、バックアップジョブ)が重なっていないかも確認する。
外部バックアップが遅い場合の追加確認
内部参照として挙げられている「DS723+ backup to external drive really slow」という相談では、外付けUSBドライブへのHyper Backupが異常に遅いという症状が報告されている。
このケースでは、以下の点を順に確認する。
1. 接続したUSBポートがUSB 3.2 Gen 1(5Gbps)で認識されているか(DSMのコントロールパネル → 外付けデバイスで確認)
2. バックアップ先のファイルシステムが何か(NTFS、exFAT、ext4など。exFATはSynologyのexFAT Accessパッケージが必要)
3. バックアップタスクのバージョン管理方式(多重バージョン管理はI/O負荷が高い)
4. バックアップ元の共有フォルダに大量の小ファイルが含まれていないか
小ファイルが数百万個あるようなフォルダをバックアップすると、ディスクのランダム読み取り性能が律速となり、転送速度が数MB/sまで落ちることがある。この場合、バックアップタスクをフォルダ単位で分割し、小ファイルが多いフォルダは圧縮オプションを有効にするなどの対策が考えられる。
メーカー情報から外せる不安:公式仕様とサポート
DS723の転送速度に関する不安を解消するには、メーカーが公開している公式情報を確認することが近道だ。
公式仕様表の読み方
Synologyの製品ページには、DS723の詳細な仕様が掲載されている。特に以下の項目は、転送速度に直接関係するため、購入前およびトラブル時に確認しておきたいDS723+ ダウンロードセンター。
- ネットワークポート:1GbE RJ-45 ×2(Link Aggregation / Failover対応)
- USBポート:USB 3.2 Gen 1 ×1、eSATA ×1
- 最大内部ボリューム数:64
- 最大iSCSIターゲット数:128
これらの数値は、DS723がどの程度の同時接続や転送速度を想定して設計されているかを示す目安になる。
ファームウェアとドライバの更新
DSMのバージョンが古いと、既知の不具合が修正されておらず、特定の条件下で速度が低下することがある。コントロールパネル → 更新と復元から、DSMとパッケージの更新状況を確認し、最新の状態に保つ。特に、SMBサービスの更新やドライバの修正が含まれている場合、転送速度が改善することがある。
保証条件とサポート窓口
DS723のハードウェア保証期間は、購入日から3年間である(延長パックで最大5年まで延長可能)。初期不良や突然の故障に備えて、購入時のレシートや納品書は保管しておく。
ハードウェアに起因する速度低下(特定のドライブベイだけ遅い、LANポートが1Gbpsでリンクしないなど)が疑われる場合は、Synologyのサポートチケットを発行する。その際、以下の情報をまとめておくとスムーズだ。
- シリアル番号
- DSMバージョン
- 搭載ドライブの型番と構成
- 速度低下が発生する具体的な操作手順
- リソースモニターのスクリーンショット
- テストに使用したファイルのサイズと数
急いで選ばなくてよいケース:買い替えや増設を判断する前に
DS723の転送速度が遅いと感じても、すぐに買い替えや高額なアップグレードに走る必要はない。以下のようなケースでは、設定や運用の見直しで解決することが多い。
- 転送速度が遅いと感じるのが特定の時間帯だけの場合(他のネットワーク利用者が多い、スケジュールタスクが重なっている)
- 特定のファイルやフォルダだけ遅い場合(小ファイルが多い、アクセス権限の解決に時間がかかっている)
- Wi-Fi接続で速度を測定している場合(有線接続に切り替えるだけで大幅に改善することがある)
- バックアップタスクだけが遅い場合(バックアップ先のドライブやファイルシステムが原因の可能性が高い)
まずは、この記事で紹介した手順でネットワーク層とディスク層を切り分け、ボトルネックを特定する。それでも改善しない場合に、NAS本体の買い替えや2.5GbE/10GbE対応の拡張ユニット導入を検討するのが合理的だ。
最後に確認する項目:切り分けのメモと次の一手
DS723の転送速度が遅いときの切り分け手順を、検証メモとして残しておく。
- [ ] テスト環境を固定したか(PC、ケーブル、時間帯、ファイルサイズ)
- [ ] DSMのネットワークインターフェースでリンク速度が1Gbpsであることを確認したか
- [ ] スイッチやルーターの他のポート、あるいは別のスイッチでテストしたか
- [ ] ジャンボフレームの設定を確認し、必要に応じて無効化したか
- [ ] リソースモニターでCPU、メモリ、ディスク使用率を確認したか
- [ ] ログセンターでエラーや警告が記録されていないか確認したか
- [ ] SMART情報でドライブの健康状態に問題がないか確認したか
- [ ] 外部バックアップの場合、USBポートの規格とファイルシステムを確認したか
- [ ] DSMとパッケージが最新バージョンに更新されているか確認したか
これらの項目を一つずつチェックし、条件を変えて再テストすることで、多くの場合ボトルネックは特定できる。
DS723は、2ベイというコンパクトな筐体ながら、十分な転送速度を発揮できるポテンシャルを持っている。速度が出ない原因がネットワークなのかディスクなのかを正しく切り分け、適切な対処を施せば、快適なNASライフを取り戻せるはずだ。

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