はじめに:8ベイNASのドライブ選び、なぜか「とりあえず互換リスト」で失敗する
DS1825を導入しようと考えたとき、真っ先に確認するのがメーカーの互換性リストだ。しかし、リストに載っているドライブを選んだのに、思ったようなパフォーマンスが出なかったり、後から「この使い方には向いていなかった」と気づくケースは少なくない。とくに「5400rpmのドライブで動画編集は大丈夫か」という相談は、DS1825のような8ベイクラスになると頻出する悩みだ。
ここで見落とされがちなのは、互換性リストが「物理的・電気的に認識するか」を検証したものであり、必ずしも「その用途で十分な速度が出るか」を保証するものではないという点だ。DS1825は2.5GbEを標準搭載し、拡張カードで最大25GbEまで対応できる高速NASだ。しかし、ドライブの選択を間違えると、ネットワーク帯域よりも先にストレージ側がボトルネックになる。
この記事では、実際の購入相談でよくある「動画用に5400rpmドライブを選んでいいのか」という疑問を出発点に、互換性リストの読み方、確認順、そして買うべきか待つべきかの判断基準までを整理する。
まず整理したい:DS1825に求める役割と、今のネットワーク環境
DS1825は8ベイのデスクトップ型NASで、拡張ユニットを接続すれば最大432TB(公式発表値)まで容量を増やせる。しかし、最初に決めるべきは「何のために使うのか」だ。単なるファイルサーバーなのか、複数人での動画編集ストレージなのか、あるいはバックアップ先として静かに動いてほしいのか。
動画編集ストレージとして見たときの速度要件
たとえば4K動画を直接NAS上で編集する場合、必要なのはシーケンシャル読み書きの速度だ。DS1825自体は、2.5GbE接続で最大約280MB/sの転送速度を理論上出せる。しかし、これはネットワークの上限であって、ドライブの実力が追いつかなければ意味がない。
ここでよくあるのが「5400rpmの大容量HDDで十分」という思い込みだ。たしかに1台あたりのシーケンシャル読み出し速度は150〜200MB/s程度出るため、単体のファイルコピーなら問題ないように見える。しかし、複数ストリームの同時編集や、複数クライアントからのアクセスが発生すると、HDDのランダムアクセス性能の低さが顕在化する。
5400rpmドライブの現実的な限界
実際に、DS1825に5400rpmのドライブを8台搭載し、RAID 5やRAID 6を組んだ場合、アレイ全体のシーケンシャル読み出しは1,000MB/sを超えることもある。だが、これはあくまで連続した大容量ファイルの読み出しに限った話だ。動画編集では、タイムラインをシークするたびに細かい読み出しが発生する。このとき、HDDのヘッドシーク時間が応答遅延につながり、編集作業がもたつく原因になる。
とくに注意したいのは、RAID再構築時や、複数ユーザーが同時にアクセスする環境だ。5400rpmドライブでは、こうした負荷がかかると体感速度が急激に落ちる。
公式互換性リストの「見るべき列」と「読み落としがちな注釈」
Synologyの互換性リストは、公式互換性ページで確認できる。ここで多くの人は「モデル名」と「容量」だけを見て判断してしまう。しかし、実際にはもっと見るべき項目がある。
見るべきポイント1:ドライブの「カテゴリ」と「ファームウェア」
互換性リストでは、ドライブが「HDD」「SSD」のどちらに分類されているかはもちろん、特定のファームウェアバージョンが必要な場合がある。リストに「注意」や「注釈」があるドライブは、その条件を満たさないと認識すらしないことがある。
見るべきポイント2:SATA世代とインターフェース速度
DS1825の内部ベイはSATA III(6Gbps)だが、リストにはSATA II(3Gbps)のドライブも含まれている。SATA IIのドライブは、理論帯域が半分になるため、シーケンシャル速度が200MB/s前後で頭打ちになる。大容量ファイルの転送では気にならなくても、ランダムアクセスが多い用途では影響が出る。
見るべきポイント3:非対応モデルの変更ログ
互換性リストには「非対応モデル」というタブがあり、以前は互換とされていたドライブが、ファームウェア更新や不具合報告によって非対応になったケースが記録されている。中古や在庫処分品を購入する際は、この変更ログを必ず確認する必要がある。
HDDとSSDの使い分け:DS1825での最適解は「階層化」
DS1825は8つの3.5/2.5インチベイに加え、M.2 NVMeスロットを2基搭載している。このM.2スロットはキャッシュ専用だが、ここをどう使うかで全体のパフォーマンスが大きく変わる。
SSDキャッシュの効果と落とし穴
M.2 NVMe SSDを読み書きキャッシュとして設定すれば、よく使うデータへのアクセスが高速化する。とくに動画編集のように、同じファイルを繰り返し読み書きする用途では効果が高い。しかし、キャッシュが効くのは「頻繁にアクセスされるデータ」だけだ。初回アクセスや、めったに触らないアーカイブデータは、依然としてHDDの速度に依存する。
また、SSDキャッシュを有効にすると、キャッシュ用SSDが故障した場合にデータが破損するリスクがある。書き込みキャッシュを有効にする場合は、必ずRAID 1構成のSSDを使い、定期的なバックアップと併用する必要がある。
ベイをSSDで埋める判断
予算に余裕があるなら、8ベイの一部をSATA SSDで埋める選択肢もある。たとえば、高頻度で編集するプロジェクトデータはSSDボリュームに置き、完成したデータはHDDボリュームに移動する、という運用だ。DS1825では複数のストレージプールを作成できるため、SSDとHDDを混在させた柔軟な設計が可能だ。
ただし、SATA SSDはNVMeに比べて速度が劣るため、10GbE以上のネットワークを導入する場合は、ネットワーク帯域を活かしきれない可能性がある。購入前に、公式のDS1825+製品ページで拡張カードの対応状況と、ネットワークアップグレードの選択肢を確認しておきたい。
RAIDとバックアップを分けて考える:データを失わないための設計
DS1825に限らず、NASを導入するときに最も誤解が多いのが「RAIDを組めばバックアップは不要」という考え方だ。RAIDはあくまで「ドライブ故障時の可用性を高める」仕組みであり、誤削除やランサムウェア、NAS本体の故障からはデータを守れない。
RAIDレベルの選択基準
DS1825では、RAID 0/1/5/6/10、そしてSynology Hybrid RAID(SHR)が利用できる。動画編集のように速度を重視するならRAID 10、容量効率を重視するならRAID 5やSHRが候補になる。ただし、RAID 5は大容量ドライブを使う場合、再構築中にもう1台が故障するリスクが指摘されている。8ベイに大容量HDDを搭載するなら、RAID 6またはSHR-2で二重パリティを確保するほうが安全だ。
外部バックアップの具体的な方法
SynologyのHyper Backupを使えば、外付けUSB HDDや別のNAS、クラウドストレージに自動バックアップを取れる。DS1825を導入するなら、バックアップ先の確保もセットで計画する必要がある。とくに、NAS本体の故障に備えて、重要なデータはクラウドにも同期しておくことが推奨される。
障害時の復旧手順と、普段から見ておくべきログ
ドライブ互換性を確認して正しく設置しても、いつかは故障する。DS1825では、ドライブに異常が発生するとDSMのストレージマネージャーに警告が表示され、メール通知も設定できる。しかし、通知を見逃したり、予備ドライブを用意していないと、復旧が遅れて二次障害を招く。
SMART情報と定期的なスクラブ
各ドライブのSMART情報は、定期的に確認する習慣をつけたい。とくに「再割り当てセクタ数」や「読み取りエラー率」が増加傾向にあるドライブは、早めに交換を検討する。また、データ整合性を保つために、月に一度はRAIDスクラブ(データスクラブ)を実行することがSynologyからも推奨されている。
故障時に慌てないための準備
ホットスペアを設定しておけば、ドライブ故障時に自動的に予備ドライブで再構築が始まる。ただし、ホットスペア用のドライブも互換性リストに載っていることを確認しておく必要がある。また、再構築中はパフォーマンスが低下するため、動画編集などの負荷が高い作業は控えたほうが無難だ。
公式サポート情報をどこまで信用するか:保証と既知の不具合
DS1825の購入を検討する際、多くの人はメーカーの製品ページやデータシートを見る。しかし、それだけでは見落とす情報が、サポートページやナレッジセンターに隠れている。
既知の不具合とファームウェア更新履歴
Synologyのナレッジセンターには、DS1825+製品マニュアルや、ドライブ互換性ポリシーに関するFAQが用意されている。とくに、2025年以降のDSM 7.3以降では、互換性ポリシーが変更されている可能性があるため、購入前に必ず確認したい。
また、特定のドライブとの組み合わせで、スリープからの復帰に失敗する、認識が不安定になるといった報告がないか、コミュニティフォーラムなども参考になる。ただし、公式が認めていない情報は、あくまで参考程度にとどめるべきだ。
保証条件と初期不良対応
DS1825本体の保証期間は、通常3年(購入地域やキャンペーンによって変動)だ。しかし、互換性リストにないドライブを使った場合、サポートを受けられなくなる可能性がある。また、ドライブ自体の保証は各メーカーに依存するため、NAS用として24時間365日稼働を想定した「NAS向けHDD」を選ぶことが、長期的な安心につながる。
この構成が合う人・合わない人:5400rpmドライブで組むべきケース
ここまでの内容を踏まえて、DS1825に5400rpmドライブを選ぶ判断が「あり」なのか「なし」なのかを整理する。
5400rpmドライブで十分なケース
- 主な用途がバックアップやアーカイブで、書き込みは夜間バッチのみ
- 動画編集はプロキシ編集で、NASには完成データのみ保存
- アクセスがほとんど単一ユーザーで、ランダムアクセスが少ない
- 騒音や消費電力を抑えたい(5400rpmは7200rpmより静かで省電力)
5400rpmドライブでは厳しいケース
- 複数人で4K/8K動画を直接編集する
- 10GbE以上のネットワークを導入予定
- データベースや仮想マシンのイメージをNAS上で稼働させる
- iSCSIターゲットとして使い、ブロックレベルのアクセスが多い
こうした用途では、7200rpmのNAS向けHDDか、SATA SSD、もしくはM.2キャッシュの併用が現実的な選択になる。
買うべきか待つべきか:判断の分かれ目
DS1825は2025年5月発売と比較的新しいモデルだ。価格は2025年8月時点で約21万円前後(公式ストアや大手通販の価格を参照)と、8ベイNASとしては標準的だが、ドライブ別売りのため総額は30万円を超えることもある。
もし今すぐ8ベイが必要ないなら、より小型のモデルで運用を始め、後からDS1825に移行する手もある。ただし、拡張性を見据えて最初からDS1825を選ぶのは、長期的には無駄が少ない。
見落としを減らす最終メモ:購入前にチェックすべきこと
最後に、DS1825のドライブ互換性とストレージ設計で失敗しないためのチェックリストをまとめる。
- 互換性リストで「モデル名」「容量」だけでなく「カテゴリ」「ファームウェア要件」「非対応モデル変更ログ」を確認する
- M.2 NVMeスロットのキャッシュ運用を計画し、書き込みキャッシュのリスクを理解する
- 公式サポートページで既知の不具合やファームウェア更新履歴を確認する
- 保証条件を理解し、NAS向けドライブを選ぶ
DS1825は拡張性と信頼性を両立した優れたNASだが、その性能を引き出すには、ドライブ選びとストレージ設計が何より重要だ。互換性リストは「スタートライン」に過ぎない。その先にある実際の運用を見据えて、ドライブを選んでほしい。

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