Bambu Lab A1で「Cool Plate SuperTackを使っているのに、印刷の約3割が途中で剥がれて失敗する」という相談を切り口に、何を固定して何を一つだけ変えるかを決める。ここでは、プレート表面の状態とベッド温度の組み合わせを軸に、症状を再現しながら検証を進める。
比較条件をそろえるため、まずA1のメーカー公式情報で現行仕様を確かめます。
まず観察するのは「剥がれる場所」と「剥がれるタイミング」
定着不良と一口に言っても、症状は一様ではない。A1でプリントが剥がれるとき、最初に確認すべきは「どこで」「いつ」剥がれるかだ。
特定の場所だけ剥がれるなら、油分とレベリングの偏りを疑う
ビルドプレートの右端や中央付近など、いつも同じ場所で定着しない場合は、まず皮脂や油分の付着を疑う。A1に付属するテクスチャーPEIプレートは、指で触れただけでもその部分の密着力が落ちることが知られている。Bambu Labの公式Wikiでも「最適な接着性を維持するために、ビルドプレートは温水と通常の石鹸を使用して清掃することをお勧めします」と明記されている。食器用洗剤と柔らかいスポンジで丁寧に洗い、すすぎ残しのないように乾燥させてから再度試すと、あっさり解決するケースは多い。
洗浄後も同じ場所で剥がれる場合は、ベッドの水平度やノズル高さに偏りがないか確認する。A1は自動ベッドレベリング機能を搭載しているが、それでも初期キャリブレーションがずれていると、特定のエリアだけノズルが遠くなり定着不良を起こす。本体メニューから「設定」→「キャリブレーション」→「自動ベッドレベリング」を実行し、その後一層だけのテストプリントを行って目視で確認するとよい。
全体が一様に定着しないなら、温度と素材設定を再確認する
プレート全体でフィラメントがまったくくっつかない、あるいは一層目から線が細く途切れがちな場合は、温度設定とスライサー上のプレート選択が合っているかを疑う。Cool Plate SuperTackは、その名の通り低温での定着を狙ったプレートだが、素材との組み合わせによってはベッド温度が低すぎて密着力が不足することがある。
たとえば、PLAフィラメントでCool Plate SuperTackを使う場合、Bambu Studioのデフォルト設定ではベッド温度が35~45℃程度に設定されることが多い。しかし、実際の使用環境やフィラメントの個体差によっては、これでは定着が弱く、一層目が浮いてしまう。あるユーザーは、SuperTackで波打ちやノズルこすれが頻発した際、ベッド温度を45℃から55℃に上げて様子を見たが改善せず、最終的にTextured PEI Plateに戻したところ問題が解消したと報告している。
この事例が示すのは、プレートの種類とベッド温度の相性が定着に大きく影響するという点だ。Cool Plate SuperTackは特定の条件下では高い性能を発揮するが、すべてのフィラメントや環境で万能ではない。
途中で剥がれるなら、反りと冷却のバランスを考える
一層目はきれいに貼り付いていたのに、数層積み上がったところで端から浮き上がる、あるいはノズルに引きずられて剥がれる場合は、造形中の反りや冷却不足が原因であることが多い。A1は開放型のプリンターであり、外気温やエアコンの風の影響を直接受ける。特に冬場や冷房の効いた部屋では、造形物の上層が急激に冷えて収縮し、プレートから剥がれやすくなる。
設置場所の室温は10~30℃が適正とされており、エアコンや扇風機の風が直接当たらないようにするのが基本だ。それでも剥がれる場合は、スライサーで「ブリム」や「マウス耳型ブリム」を追加して接地面積を増やす、あるいは「スカート」を一層目の診断用に活用するといった対策が有効になる。
Cool Plate SuperTackで起きやすい症状と、その場で試す温度の振り方
Cool Plate SuperTackは、PLAやPETGなどの低温定着を狙ったプレートだが、使用開始からしばらくして突然定着不良が増えることがある。これは、プレート表面の微細なコーティングが摩耗したり、洗浄方法によって皮膜が変化したりするためと考えられる。
ベッド温度を5℃刻みで変えながら一層目テストを繰り返す
SuperTackで定着が怪しくなったら、まずベッド温度をデフォルトから5℃ずつ上げて一層目だけのテストパターンを印刷する。Bambu Studioでプレート温度を手動設定し、同じGコードで繰り返し試すと、温度による密着度の変化をつかみやすい。
ある検証では、ベッド温度を45℃→50℃→55℃と上げても波打ちが改善せず、ノズル温度を220℃から230℃に上げても効果がなかった。最終的にTextured PEI Plateに交換したところ、まったく乱れなくなったという。この結果から、SuperTackの表面状態が変化した可能性や、プレート自体の寿命が疑われる。
ノズル温度は「フィラメントの上限」ではなく「一層目の流動性」で決める
ベッド温度と同時に見直したいのがノズル温度だ。一層目だけは通常より5~10℃高めに設定すると、フィラメントが柔らかくなり、プレートの凹凸に食い込みやすくなる。ただし、高すぎると糸引きやオーバーハングのダレを招くため、一層目のみの設定変更が推奨される。
Bambu Studioでは、「フィラメント設定」の「冷却」タブで「最初の層の温度」を個別に指定できる。ここで普段より5℃高い値を試し、定着が改善するかを見る。
プレートと温度だけでは直らないときの切り分け手順
プレートの清掃、温度調整、ベッドレベリングを一通り試しても改善しない場合、原因は別のところにある。A1の公式トラブルシューティングには「一層目が低すぎる」という症状が詳しく解説されており、ホットエンドの固定ネジの緩みや、ヒーターアセンブリのクリップ不良が原因となるケースが挙げられている。
ホットエンドのガタつきを確認する
印刷中にノズルがビルドプレートに近づきすぎたり、逆に離れたりする症状は、ホットエンドの固定が不十分なときに起こる。A1のホットエンドは工具なしで交換できる構造だが、その分、固定用のバックル(クリップ)が正しくロックされていないと、押し出し圧力でノズルが下がってしまう。
確認方法は簡単で、プリンターの電源を切り、ホットエンドが冷えた状態で手で優しく揺らしてみる。明らかなガタつきがあれば、クリップの向きと固定状態を見直す。Bambu Lab Wikiには、ヒーターアセンブリ背面の4本の小さなネジ(M2×6)を締め直す手順も記載されている。これらのネジが緩むと、一層目が波打ったり、ノズルがプレートをこする原因になる。
フィラメントの送り出しとノズル詰まりを点検する
一層目がかすれたり、線が途切れたりする場合は、フィラメントの送り出し経路に抵抗がないか確認する。スプールがスムーズに回転しているか、PTFEチューブ内でフィラメントが折れていないか、エクストルーダーのギアが削れていないかを順に点検する。
特に、長期間放置したフィラメントは吸湿して脆くなり、チューブ内で折れることがある。また、ノズルが部分的に詰まっていると、押し出し量が不安定になり、一層目だけがうまく出ないという症状が出る。この場合は、フィラメントをアンロードし、ノズルクリーニングを実行するか、新品のノズルに交換する。
公式仕様と実使用のすり合わせで見えてくる「買うべきか待つべきか」
ここまで、プレートの清掃、温度調整、ホットエンドの点検、フィラメント経路の確認と、定着不良の原因を切り分けてきた。それでも解決しない場合、プレートの買い替えや、別の種類のプレートへの移行を検討する段階に入る。
新しいプレートを買う前に確認すること
A1で使えるプレートは、Textured PEI Plate、Smooth PEI Plate、Cool Plate SuperTackなど複数ある。購入前に、まず現在のプレートが本当に寿命なのかを見極めたい。
- 洗浄後に一層目テストを行い、定着が改善するか
- 別のフィラメント(新品のPLAなど)で試して、症状が再現するか
- プレートの表面に目立つ傷や剥がれがないか
これらを確認しても改善しない場合、プレートのコーティングが劣化している可能性が高い。特にSuperTackは、強力な定着力を発揮する反面、表面の微細構造が摩耗しやすいという報告もある。
どのプレートを選ぶかは「主に使う素材」で決める
- Textured PEI Plate:PLA、PETG、ABSなど幅広い素材に対応し、定着と剥がしやすさのバランスが良い。多くのユーザーが最初に使う標準プレートで、定着不良に悩んだときの「戻り先」として信頼性が高い。
- Smooth PEI Plate:底面を平滑に仕上げたい場合に適するが、定着力はTexturedに劣る傾向がある。PLAなら問題ないが、PETGでは逆に密着しすぎて剥がしにくくなることもある。
- Cool Plate SuperTack:低温定着が可能で、消費電力を抑えたい場合や、反りやすい素材の一層目を抑えたい場合に有効。ただし、表面の劣化が早いと感じるユーザーもおり、長期的なコストパフォーマンスは使用頻度による。
公式ストアでは、各プレートの対応素材と推奨温度が明示されている。
それでも迷ったときの判断基準
「SuperTackが使えなくなったから買い替えか、別のプレートにするか」で迷ったら、以下の順で考える。
1. 印刷の成功率を最優先するなら、実績のあるTextured PEI Plateを選ぶ。
2. 底面の平滑性が必要なモデルが多いなら、Smooth PEI Plateを追加する。
3. 低温定着のメリットを捨てがたいなら、新しいSuperTackを購入し、取り扱いをより丁寧にする(洗浄頻度を増やす、スクレーパーを使わないなど)。
いずれにせよ、プレートは消耗品であることを前提に、予備を持っておくとトラブル時のダウンタイムを減らせる。
設定変更の記録と再現性を高めるメモの取り方
定着不良の原因を特定するには、条件を変えながらテストを繰り返すしかない。その際、闇雲に設定をいじるのではなく、変更内容と結果を簡潔に記録しておくと、後から振り返りやすい。
テストカードの例
| 日付 | プレート | フィラメント | ベッド温度 | ノズル温度(1層目) | 結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/18 | SuperTack | PLA(新品) | 45℃ | 220℃ | 右端が浮く |
| 7/18 | SuperTack | PLA(新品) | 50℃ | 220℃ | 全体が波打つ |
| 7/18 | Textured PEI | PLA(新品) | 55℃ | 220℃ | 全面きれいに定着 |
このように、変えた条件と結果を一行で残すだけでも、次の一手が決めやすくなる。
最終的に試した条件を記録する
- プレート:Textured PEI Plate
- ベッド温度:55℃(一層目のみ60℃)
- ノズル温度:一層目225℃、以降220℃
- ベッドレベリング:印刷前に毎回実行
- 清掃:食器用洗剤で週1回、印刷前はイソプロピルアルコールで拭き取り
このメモを基準に、自分の環境に合った設定を詰めていけば、定着不良に振り回される時間は確実に減る。A1は信頼性の高いプリンターだが、その性能を引き出すには、プレートと温度の組み合わせを「観察→変更→記録」のサイクルで最適化していく姿勢が欠かせない。

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