Synology DS923+は、4ベイのNASとして高い拡張性と安定した動作が魅力のモデルです。しかし、購入を検討する段階で「自分の使い方で性能が足りるのか」「思っていたより遅くて失敗したくない」という不安を持つ人は少なくありません。スペック表の数値だけでは見えてこない、実際の運用で起こりがちなボトルネックや、購入前に確認すべきポイントを整理しました。この記事では、用途別の必要性能の目安、見落としやすい互換性の問題、買うべきか待つべきかの判断基準までを具体的に解説します。
DS923+で「性能が足りるか不安」と感じる典型的な状況
購入前の不安は、大きく分けて二つのパターンがあります。一つは「ファイルサーバーとしての基本性能は十分か」という純粋なスペックへの疑問。もう一つは「やりたいことがあるけれど、DS923+で本当に実現できるのか」という用途とのマッチングへの不安です。
たとえば、以下のような声が掲示板やレビューで見られます。
- 複数人で同時に大きなファイルにアクセスするオフィス環境で、レスポンスが悪化しないか
- Plexなどのメディアサーバーとして使う場合、トランスコードが必要な動画を再生できるのか
こうした不安は、スペック表に記載されたCPUクロック数やベンチマークスコアだけでは解消しきれません。実際の運用では、ネットワーク環境や使用するHDD/SSDの種類、RAID構成、同時アクセス数など、さまざまな要素が絡んでくるからです。
NASとして先に確認すべき仕様と制約
DS923+の性能を正しく評価するには、まず基本的な仕様と、その仕様が実際の使用感にどう影響するかを理解する必要があります。ここでは、見落とされがちなポイントを中心に解説します。
用途別に必要な性能の目安
NASに求められる性能は、使い方によって大きく変わります。以下に代表的な用途と、DS923+がどの程度対応できるかの目安をまとめました。
| 用途 | 必要な性能の目安 | DS923+での適性 |
| — | — | — |
| ファイル共有・バックアップ | シーケンシャル読み書き100MB/s以上 | 十分対応可能。ギガビットLAN環境ではネットワーク側が上限になることが多い |
| 4K動画編集(軽量プロキシなし) | 持続的な高速転送(200MB/s以上推奨) | 10GbE拡張カードとSSDキャッシュの追加で対応可能。標準の1GbEでは厳しい |
| Plexメディアサーバー(4Kトランスコード) | ハードウェアトランスコード対応GPU | DS923+はAMD Ryzen R1600搭載で、内蔵GPUがないためソフトウェアトランスコードに依存。4Kトランスコードは事実上困難 |
| 複数台のIPカメラ録画 | 安定した書き込み性能と十分な容量 | Surveillance Stationで対応。カメラ台数と解像度によるが、4ベイで十分な容量を確保しやすい |
| Docker・仮想マシン複数運用 | 十分なメモリとCPUコア数 | メモリ増設(最大32GB)で小規模な環境なら可能。ただし、重い処理を複数同時に行うとCPUがボトルネックになる場合がある |
上記はあくまで目安であり、実際のパフォーマンスはHDDの回転数やRAID構成、ネットワーク機器の性能によって変動します。特に動画編集や仮想化をメインに考えている場合は、次のセクションで説明するボトルネックを事前に理解しておくことが重要です。
ボトルネックになりやすい箇所
「DS923+が遅い」と感じる原因は、NAS本体の処理能力よりも、周辺環境にあることが少なくありません。以下の三つは、特に注意すべきポイントです。
ネットワーク帯域
DS923+は標準で1GbEポートを2基搭載しています。リンクアグリゲーションを設定すれば理論上は2Gbpsの帯域を確保できますが、実際に速度向上の恩恵を受けるには対応スイッチが必要で、かつ複数のクライアントが同時にアクセスする場合に限られます。単一のクライアントが1GbE接続でファイル転送を行うと、どんなにNASが高速でも転送速度は約110MB/s前後が上限です。10GbE環境を構築するには、別売りの10GbEネットワークアップグレードモジュール(E10G22-T1-Mini)が必要になります。
HDDの性能
NASの体感速度は、搭載するHDDのスペックに大きく左右されます。同じ4ベイRAID 5構成でも、5400rpmの低回転HDDと7200rpmの高性能HDDでは、特にランダムアクセス時のレスポンスに差が出ます。また、SMR(Shingled Magnetic Recording)方式のHDDは、書き込みが連続すると極端に遅くなることがあるため、NASでの使用にはCMR(Conventional Magnetic Recording)方式のHDDを選ぶのが無難です。
ファイルプロトコルと暗号化
SMBやAFPなど、使用するファイル共有プロトコルによっても転送速度は変わります。また、共有フォルダの暗号化を有効にすると、CPUに負荷がかかり転送速度が低下する場合があります。セキュリティと速度のバランスは、実際の運用で調整が必要です。
体感差を確認する具体的な方法
購入前に実際のパフォーマンスをイメージするのは難しいものですが、いくつかの方法で推測することができます。
- 現在の環境でボトルネックを計測する: 今使っているPCのディスク速度(CrystalDiskMarkなどで計測)と、ネットワーク経由でのファイルコピー速度を比較します。ネットワーク経由が明らかに遅い場合は、NASを導入してもネットワークがボトルネックになる可能性が高いです。
- レビュー記事の実測値を参考にする: マイベストやyorimonoなどのレビューサイトでは、実際のファイルコピー速度やベンチマーク結果が公開されています。これらの数値は、使用するHDDやRAID構成、ネットワーク環境が明記されているため、自分の環境に近い条件のデータを探すと具体的なイメージが湧きやすいでしょう。
- Synologyの公式デモサイトを触ってみる: SynologyはDSMのオンラインデモを公開しています。実際の操作感やアプリの動作を試すことで、CPUやメモリの負荷に対する体感を得ることができます。
HDD/SSD互換性とメーカー推奨条件
DS923+は、Synologyの互換性リストに掲載されているHDDやSSDの使用が推奨されています。互換性リストにないドライブを使うと、認識しない、速度が出ない、警告が表示されるといった問題が起こる場合があります。
特に注意したいのは、特定の機能が制限されるケースです。たとえば、Synologyの一部NASでは、互換性のないドライブを使用すると「ドライブの健全性情報が取得できない」といったメッセージが表示されたり、RAIDの再構築に失敗するリスクが指摘されています。DS923+についても、購入前に公式サイトで最新の互換性リストを確認することが、トラブルを避けるための第一歩です。
また、NVMe SSDキャッシュを利用する場合は、キャッシュ専用スロットに装着するSSDの耐久性(TBW)にも注意が必要です。キャッシュの読み書き頻度が高い環境では、耐久性の低いSSDを使うと短期間で寿命を迎える可能性があります。
RAIDとバックアップを混同しない設計
RAIDはデータの冗長性を高める仕組みですが、バックアップとは別物です。RAID 1やRAID 5は、1台のHDDが故障してもデータを失わないための保険ですが、誤操作による削除やランサムウェアによる暗号化、NAS本体の故障からはデータを守れません。
DS923+を導入する際は、必ず別のメディアやクラウドへのバックアップ計画をセットで考えましょう。SynologyのHyper Backupを使えば、外付けUSB HDDや別のNAS、クラウドストレージへの自動バックアップが簡単に設定できます。
2.5GbE/10GbEやWi-Fi経由の速度限界
高速なNASを導入しても、接続経路がボトルネックになれば期待した速度は出ません。以下に、接続方式ごとの速度の目安を整理します。
| 接続方式 | 理論上の最大速度 | 実際の転送速度の目安 |
| — | — | — |
| 2.5GbE有線 | 2.5Gbps | 約280MB/s(対応機器必須) |
| 10GbE有線 | 10Gbps | 約500~1000MB/s(HDD/SSDやRAID構成に依存) |
| Wi-Fi 6(無線) | 最大9.6Gbps(理論値) | 実環境では100~300MB/s程度。電波状況や距離で大きく変動 |
DS923+を10GbE対応にするには、前述の拡張モジュールが必要です。また、2.5GbE対応のスイッチやルーターを経由すれば、10GbEモジュールを2.5GbEでリンクさせることも可能ですが、その場合は2.5GbEの速度が上限になります。Wi-Fi経由でのアクセスは、どうしても速度が不安定になりがちなので、大容量ファイルを頻繁に扱う場合は有線接続が現実的です。
買うべき人・待つべき人・別の選択肢が良い人
ここまでの情報を踏まえて、DS923+が適しているケースと、そうでないケースを整理します。
DS923+が向いている人
- 長期的にデータを安全に保管したい人: 4ベイでRAID 5やSHRを組むことで、容量と冗長性をバランスよく確保できます。拡張ユニットで最大9ベイまで増設できるため、将来的な容量不足にも柔軟に対応可能です。
- Synologyのアプリケーションエコシステムを活用したい人: Surveillance Station、Synology Drive、Synology Photosなど、多様なアプリが無料で利用できます。特に、スマートフォンとの連携やリモートアクセスのしやすさはSynologyの強みです。
DS923+が向いていない人
- 4K動画のトランスコードをメインに考えている人: 内蔵GPUがないため、Plexなどでの4Kトランスコードは事実上不可能です。この用途には、Intel製CPUを搭載し、Quick Sync Videoによるハードウェアトランスコードに対応したモデル(例:DS423+やDS920+)のほうが適しています。
- すぐに10GbE環境が必要な人: 10GbEモジュールが別売りで、さらに10GbE対応スイッチやPC側のアダプターも必要になるため、総額が高くなります。最初から10GbEポートを標準搭載したNASを選ぶほうが、トータルコストを抑えられる場合があります。
待つべきか、今買うべきかの判断基準
DS923+は2022年11月発売と、NASとしてはまだ新しいモデルです。すぐに後継機が出る可能性は低いですが、以下のような場合は購入を急がないほうが良いかもしれません。
- 10GbE標準搭載モデルを待てる: 現状、DS923+は10GbEがオプションですが、競合他社の同クラスNASでは標準搭載が増えています。Synologyからも、今後標準搭載モデルが出る可能性はゼロではありません。
- 価格の変動を待てる: 為替やキャンペーンによって価格が変動します。急ぎでなければ、セール時期を狙うのも一つの手です。
購入前に確認すべきチェックリスト
実際に購入する前に、以下の項目を確認しておくと、後悔するリスクを減らせます。
- 公式サイトの互換性リストで、型番を必ず確認する。
2. 必要なネットワーク機器は揃っているか
3. バックアップ計画は具体的に立てたか
4. 目的のアプリケーションがDSMで動作するか確認したか
- Plexのトランスコードが必要なら、別のモデルを検討する。
5. 設置場所の騒音・振動・放熱は問題ないか
- HDDの動作音やファンノイズは、静かな環境では気になる場合がある。
6. UPS(無停電電源装置)の導入を検討したか
- 突然の停電によるデータ破損を防ぐため、UPSとの連携を推奨。
よくある質問
Q. DS923+で4K動画編集は快適にできますか?
A. 標準の1GbE環境では、4K動画の直接編集は難しいです。10GbE拡張モジュールとSSDキャッシュを追加し、編集用PCも10GbE対応にすることで、ようやく実用的な速度が得られます。ただし、10GbE環境でもHDDのRAID構成によっては速度が安定しない場合があるため、編集データはSSDキャッシュに載るように工夫するか、高速なSSDをボリュームとして使う構成も検討してください。
Q. DS923+とDS423+のどちらを買うべきですか?
A. 大きな違いは、CPUと拡張性です。DS923+はAMD Ryzen R1600を搭載し、拡張ユニットや10GbEに対応するなど、よりビジネス向けの設計です。一方、DS423+はIntel Celeron J4125を搭載し、GPUによるハードウェアトランスコードが可能なため、Plexなどのメディアサーバー用途に適しています。拡張性や将来的なアップグレードを重視するならDS923+、メディア再生機能を重視するならDS423+が良い選択です。
Q. メモリは増設したほうがいいですか?
A. 標準の4GBでは、複数のアプリケーションやDockerコンテナを動かすとすぐに不足します。特に、仮想マシンを運用する予定があるなら、8GB以上への増設を推奨します。公式には最大32GB(16GB×2)までサポートされていますが、購入前に最新のメモリ互換性リストを確認してください。
Q. NVMe SSDキャッシュは効果がありますか?
A. 頻繁にアクセスする小さなファイルの読み取りや、データベースのレスポンス向上には効果があります。ただし、大容量ファイルの連続転送ではほとんど効果がなく、キャッシュ用SSDの寿命を消費するだけになる場合もあります。自分の使い方でランダムアクセスが多いかどうかを判断して導入を決めましょう。
Q. DS923+の消費電力や電気代はどのくらいですか?
A. 公式データシートによると、稼働時の消費電力は約35.51W(4台のHDD搭載時)、HDD休止時は約11.52Wです。実際の電気代は使用するHDDの台数やアクセス頻度によって変動しますが、常時稼働させても月数百円程度に収まることが多いです。

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