モニタースピーカーとは、音を「気持ちよく聴く」ためのスピーカーというより、音を「正確に確かめる」ための道具だ。曲作りや動画編集で、低音が多すぎるのか、ボーカルが刺さっているのか、リバーブをかけすぎたのか。そういう判断をミスらないために使う。ここを先に腹落ちさせると、どれを選ぶか、どう置くか、どうつなぐかがスムーズに決まる。
普通のスピーカーは、聴いて楽しい音を目指して味付けされていることが多い。低音が少し太くなっていたり、高音がきらっとしたり。その「盛り」が、作業では邪魔になる場面がある。自分のミックスが良くなった気がするのに、スマホで鳴らすと低音が消えたり、車で聴くとボーカルが埋もれたりする。原因のひとつが、再生環境のクセに引っぱられて判断してしまうこと。モニタースピーカーは、そのクセを減らして「いま何が起きているか」を見せてくれる。
実際に導入すると、最初はびっくりする。いつも聴いている好きな曲が、思ったより低音がスッキリして聴こえることがある。逆に自分の音源を流すと、キックが膨らんでいたり、ボーカルのサ行が耳に刺さったりして、普段は気づかない粗が見える。嫌な発見に見えるけど、ここからが強い。直す方向がはっきりするから、作業の手戻りが減る。音量を上げなくてもバランスが判断できて、耳が疲れにくくなったと感じる人も多い。
じゃあ、どんな製品を選べばいいのか。初心者が一番つまずくのは「性能」より「前提条件」だ。机の上に置くのか、部屋は広いのか、壁が近いのか。これを無視して大きいモデルを買うと、低域が暴れて“ずっとボワつく部屋”になる。いきなり理想を追うより、まず扱いやすいところから入るのが現実的だ。
たとえば定番の入口としてよく名前が出るのが、YAMAHA HS5。机の上でのニアフィールド運用でも扱いやすく、何より「判断しやすい音」という方向性がわかりやすい。もう少し低域の余裕が欲しいなら、設置スペースと壁距離に自信がある前提で、YAMAHA HS7が候補になる。ただし、部屋が小さいのに無理してサイズを上げると、低音の問題が増えることがある。ここは勢いで決めないほうがいい。
同価格帯でよく比較されるのが、JBL PROFESSIONAL 305P MkII。音の見え方が違うので、レビューでも好みが分かれやすい。明るさや定位の感じ方が合う人にはしっくりくる。派手さも含めて「作業が楽しい」方向に寄せたいなら、KRK RP5 Rokit 5 G4を候補に入れる人も多い。いずれにしても、同じ曲を流したときに「自分の判断がしやすい」と感じるかが大事だ。
もう一段、違う方向性を見たいなら、ADAM Audio T5Vみたいな選択肢もある。音の輪郭の出方が独特で、細かい成分の確認がしやすいと感じる人がいる。机が狭い、まずは省スペースで始めたいなら、PreSonus Eris 3.5やPreSonus Eris 4.5が現実的だ。動画編集や配信のBGM調整が中心で、いきなり本格スタジオ級にしなくていいなら、この辺りは「続けやすい」選択になる。作業机での“ちょうどよさ”で言うと、Mackie CR5-Xのようなシリーズを検討する人もいるし、引っ越しや持ち運びも見据えるならiLoud Micro Monitorみたいなコンパクト路線もある。
ただし、スピーカー本体より大事なものがある。置き方だ。正直、ここを外すと高いスピーカーを買っても報われにくい。基本はスピーカー2本と自分の位置で正三角形。ツイーター(高音が出る部分)を耳の高さに合わせ、左右が同じ条件になるように置く。これだけで「ボーカルが真ん中に立つ」感覚が出てくる。机の上に直置きすると、机が鳴って低域がボワつくことがある。そこで効くのが、アイソレーションだ。たとえばAuralex MoPADのようなパッドを噛ませると、机振動が減って輪郭が出ることがある。小技に見えるけど、導入して「え、こんなに変わるの?」となりやすい部分。もっと細かく詰めたいなら、足回りを分離できるAuralex ISO-PUCKSのような選択もある。
次に接続。ここで「思ったより音が小さい」「ブーンとノイズがする」が出やすい。モニタースピーカーは、オーディオインターフェースからバランス接続でつなぐのが基本の考え方になる。定番の入口ならFocusrite Scarlett 2i2は情報も多くて迷いにくい。PC作業中心で安定させたいなら、Steinberg UR22Cも候補になりやすい。音の出方や操作感で好みが分かれるけど、配信や収録も絡むならYAMAHA AG03MK2を入口にする人もいる。測定値やスペックより、「自分の使い方に合うつまみと端子があるか」を見たほうが満足度が高い。もう少し余裕を持って選ぶなら、MOTU M2のような候補も出てくる。
ケーブルは地味だけど、失敗が表面化しやすい。インターフェースとスピーカーをつなぐなら、まずはバランスのTRSフォンケーブル(バランス)を基本に考えると事故が少ない。機材によってはXLRケーブルが必要になる場合もあるし、端子の都合でTRS→XLR 変換ケーブルを使うケースもある。変換だらけにするとノイズ源が増えることがあるので、買う前に「出力はどれで、入力はどれか」をメモしてから揃えるのが一番早い。
最後に、部屋鳴り。ここは避けて通れない。スピーカーを変えても、部屋の反射や低域の溜まりで、聴こえ方が簡単に変わる。だからこそ、いきなり吸音材を買い込むより先に、置き場所を微調整する。壁に近づけすぎると低音が増えたように感じたり、左右の壁条件が違うと定位が崩れたりする。数センチ動かすだけで「低音が締まる」「真ん中が立つ」みたいな変化が出ることがある。地味だけど、ここが一番コスパがいい。
まとめると、モニタースピーカーは「正確に判断する」ための道具で、買う前に決めるべきは3つだ。置けるか、つなげるか、部屋のクセとどう付き合うか。最初にそこを固めてから、YAMAHA HS5のような定番で始めるのか、JBL PROFESSIONAL 305P MkIIで方向性を掴むのか、コンパクトなPreSonus Eris 3.5で机環境を整えるのかを決める。スピーカー選びはゴールじゃなくて、判断がブレない環境づくりのスタート。ここまで整うと、編集もミックスも、急に楽になる。


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