DS923を導入するとき、あるいは増設を考えたとき、最初に悩むのが「どのHDDやSSDを選べば確実に動くのか」という点だ。4ベイの空きに大容量HDDを詰め込みたいのか、M.2 NVMeスロットをキャッシュに使いたいのか、それとも外付けSSDで手軽に容量を足したいのか。目的によって確認すべき場所も、注意すべきリスクも変わってくる。
とくに2025年以降のSynologyのドライブ互換性ポリシー変更とその後の緩和は、情報を追っていないと混乱しやすい。ここではDS923を中心に、公式互換性リストの読み方から、買うべきか待つべきかの判断基準までを条件別に整理する。
内蔵HDDを増やすか、SSDキャッシュを組むかで確認先が変わる
まず、DS923のストレージ設計で迷うパターンは大きく三つに分かれる。
- 3.5インチベイに大容量HDDを追加・交換したい
- M.2 NVMe SSDをストレージプールまたはキャッシュとして使いたい
いずれの場合も、最初に開くべきはSynology公式の互換性リストだ。ここで型番の完全一致を確認しないと、認識不良や不安定動作の原因になる。
3.5インチHDD選びで見るべき項目
互換性リストでDS923を選択し、HDDカテゴリを開くと、メーカー名・型番・容量・ファームウェアバージョンが一覧表示される。このとき、型番が一文字でも違えば別物として扱われるため、購入前に必ず照合する必要がある。
たとえばWestern DigitalのWD Red Plusシリーズは広く使われているが、同一シリーズでも容量や世代によって対応状況が異なる。リストに載っていないドライブを接続した場合、Synologyは「システムのハードウェア、ソフトウェア、および構成に対してのみ限定的なサポートを提供する」と明記しており、ドライブ自体やそのファームウェアに起因する問題はサポート対象外となる。
また、DS923はAMD Ryzen R1600を搭載しており、一部の省電力HDDや特殊なセクタサイズのドライブではスピンダウンやSMART情報の取得に制約が出るケースが報告されている。公式リストで「互換性あり」とされていても、注意欄に「ファームウェアアップデートが必要」といった注記がないかも確認しておきたい。
M.2 NVMe SSDを使う場合の落とし穴
DS923はM.2 NVMeスロットを2基備えており、SSDキャッシュの作成や、DSM 7.2以降ではストレージプールとしての利用も可能になった。しかし、ここでも互換性リストの確認は必須だ。
とくに注意したいのは、M.2 SSDは発熱が大きく、DS923の内部は冷却が限られる点である。リストに掲載されていても、実際の運用ではヒートシンクの有無やエアフローによって温度が上がりすぎ、パフォーマンスが低下したり、突然認識しなくなることがある。
公式のM.2 SSD互換性リストでは、対応するフォームファクタ(2280が主流)やPCIe世代が明記されている。DS923はPCIe 3.0対応のため、PCIe 4.0のSSDも動作はするが、速度は3.0相当に制限される。発熱とコストのバランスを考えると、無理に最新世代を選ぶ必要はない。
外付けSSD/HDDに頼る前に考えること
「DS923のベイが足りないからUSBで外付けSSDを繋ごう」と考えるのは自然だが、ここには二つの大きな制約がある。
第一に、外付けドライブはDSMのストレージプールやボリュームとして扱えない。単独の共有フォルダとしてマウントすることはできるが、RAID構成やデータ保護の対象外になる。バックアップ先や一時的なデータ置き場としては使えても、メインのストレージ拡張には向かない。
第二に、USB接続の安定性はドライブケースやケーブルに依存する。SynologyはUSBデバイスの互換性リストも公開しているが、すべての組み合わせを検証しているわけではない。実際の利用では、突然の切断やスリープ復帰時の認識不良に悩まされる例が少なくない。
2025年以降の互換性ポリシーが判断を左右する
Synologyは2025年以降、一部の新製品でSynology製HDDのみをサポートする方針を打ち出した。しかし、DS923は既存モデルであるため、この厳格な制限の対象外とされている。
とはいえ、2025年以降のドライブ互換性ポリシーに関するFAQを読むと、DSM 7.3以降では非認定ドライブ使用時に警告が表示される可能性や、一部の高度な機能が制限される可能性が示唆されている。将来的なDSMアップデートで扱いが変わるリスクを考慮すると、今からドライブを購入するなら、互換性リスト掲載品を選ぶのが無難だ。
RAIDとバックアップを混同しない設計が失敗を防ぐ
ドライブ互換性と同じくらい重要なのが、RAID構成とバックアップの分離である。DS923は4ベイのため、SHRやRAID 5で冗長性を確保しながら容量を稼ぐ構成が人気だ。しかし、RAIDはあくまでドライブ故障時の可用性を高める仕組みであり、誤削除やランサムウェア、NAS本体の故障からデータを守ることはできない。
とくにDS923を導入したばかりの時期は、設定に夢中になるあまり、外部バックアップの計画が後回しになりがちだ。SynologyはHyper BackupやSnapshot Replicationといったパッケージを提供しており、別のNASやクラウドストレージ、USB外付けドライブへの定期バックアップを簡単に組める。
実際のトラブル事例としては、RAID 5を組んでいたが2台同時に故障してデータを失った、あるいはNAS本体の電源が壊れてアクセスできなくなった、といったケースが報告されている。こうした事態に備えるには、最低でも重要なデータだけでも別の場所にコピーを置く「3-2-1ルール」を意識したい。
障害時の復旧手順とログ確認を日常に組み込む
ドライブ互換性をクリアし、RAIDとバックアップを分けて設計しても、実際に障害が起きたときに慌てないためには、日頃からのログ確認と復旧手順の把握が欠かせない。
DSMの「ストレージマネージャ」では、各ドライブのSMART情報や温度、不良セクタ数をグラフで確認できる。ここで「注意」や「異常」が表示されたら、即座にバックアップを取得し、交換用ドライブを手配する流れが基本だ。
また、DSMの「ログセンター」では、システムログや接続ログを一元的に管理できる。ドライブの認識不良やI/Oエラーが断続的に記録されていないか、定期的にチェックする習慣をつけておくと、突然の故障を未然に防ぎやすくなる。
保証とサポート条件を購入前に照らし合わせる
ドライブ互換性と並んで見落としがちなのが、保証とサポートの条件だ。DS923本体の保証期間は通常3年間だが、購入後にSynologyの公式サイトで製品登録を行うと、さらに延長保証が受けられる場合がある。
一方、HDDやSSDの保証はメーカーごとに異なる。Seagate IronWolfシリーズには3年間の保証とRescue Data Recoveryサービスが付帯するものがあり、WD Red Plusは3年間、WD Red Proは5年間の保証が設定されている。障害発生時のデータ復旧サービスを考慮するなら、ドライブ単体の価格だけでなく、保証内容も比較材料になる。
また、Synologyは電話サポートやリモートデスクトップサポートを提供しているが、これらはあくまでNAS本体とDSMの動作に関するものだ。互換性リストにないドライブを使用している場合、トラブルの原因がドライブ側にあると判断されると、サポートを受けられない可能性がある。購入前にSynologyのサポートポリシーを確認しておくことを勧める。
予算をかける価値がある人、待つべき人
ここまでの条件を踏まえると、DS923に予算をかける価値があるかどうかは、以下の分岐で判断できる。
今すぐ購入・増設すべきケース
- すでにDS923を所有しており、ベイに空きがある
- 互換性リスト掲載のドライブを購入する予定で、予算が確保できている
- 10GbE拡張スロットを活用し、高速なファイル共有やバックアップを構築したい
購入を待つか、別の選択肢を検討すべきケース
- 初めてのNAS導入で、4ベイでは将来的に容量が足りなくなる不安がある
- 予算を抑えたいが、互換性リスト外の安価なドライブを使うつもりでいる
- 外付けSSDで容量を拡張しようと考えているが、安定性に懸念がある
DS923は、AMD Ryzen R1600と最大32GBのECCメモリ(非公式には64GBまで動作報告あり)を活かし、Dockerや仮想マシンを快適に動かせる点が魅力だ。しかし、拡張ユニットDX517を追加しても最大9ベイであり、大規模なストレージサーバーを求めるなら、最初から6ベイ以上のモデルを選んだほうが結果的にコストを抑えられることもある。
買った後に困らないためのチェックリスト
最後に、DS923のドライブ選びで失敗しないための確認項目をまとめる。
- 購入前にSynology互換性リストで型番の完全一致を確認したか
- M.2 SSDは発熱対策を考慮したモデルか、ヒートシンクの有無を確認したか
- RAID構成と外部バックアップを分けて計画しているか
- ドライブの保証期間とデータ復旧サービスの有無を比較したか
- DSMのバージョンと互換性ポリシーの変更履歴を確認したか
- 電源容量や冷却性能に余裕があるか(拡張ユニットや10GbEカード追加時)
よくある疑問
互換性リストにないドライブは絶対に使えないのか
物理的には認識し、使用できる場合もある。しかし、Synologyのサポート対象外となり、DSMのアップデート後に突然認識しなくなったり、SMART情報が正しく取得できなくなるリスクがある。業務用や重要なデータを扱うなら、リスクを承知の上でなければ避けるべきだ。
M.2 SSDをストレージプールにした場合、HDDと同じように使えるか
DSM 7.2以降、M.2 SSDをストレージプールとして作成できるようになった。ただし、作成できるボリュームは1つのみで、RAID構成はサポートされない。また、Synology製SSD以外では非対応の機能もあるため、事前に互換性リストと機能制限を確認する必要がある。
外付けSSDを常用するとどんな問題が起きるか
USB接続の外付けSSDは、スリープ復帰時の認識不良や、転送速度の急激な低下が起こりやすい。また、DSMのパッケージによっては外付けドライブをデータ保存先に指定できないものもある。常用するよりも、バックアップやデータ移行時の一時的な利用にとどめるのが現実的だ。
2025年以降のポリシー変更で、今使っているドライブが使えなくなる可能性はあるか
DS923は既存モデルのため、Synologyが後から強制的に使用を制限する可能性は低い。ただし、将来のDSMメジャーアップデートで警告が表示されたり、一部機能が制限される可能性はゼロではない。公式のポリシー変更を定期的にチェックし、重要なデータは常に別の場所にバックアップしておくことが大切だ。
4ベイでは足りなくなったら、どう拡張すればいいか
拡張ユニットDX517をeSATA接続で1台増設し、合計9ベイにできる。ただし、DX517上のドライブはDS923本体とは別のストレージプールとして扱われるため、既存のボリュームをそのまま拡張することはできない。また、eSATA接続の帯域幅は限られているため、高速なアクセスが必要なデータは本体側に置く設計が望ましい。
どのRAIDタイプを選べば失敗が少ないか
DS923で最もバランスが良いのはSHR(Synology Hybrid RAID)だ。異なる容量のHDDを混在させても無駄なく容量を活用でき、1台のドライブ故障に耐えられる。RAID 0は速度は出るが冗長性がなく、RAID 5は容量効率は良いが、大容量HDDでは再構築中にさらなる故障が起きるリスクが高まる。まずはSHRで運用を始め、必要に応じてバックアップと復旧手順を整えるのが安全だ。

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