マンションの改修現場で、壁を叩くと「ポコポコ」と軽い音がする。あの、嫌な予感がする瞬間は何度経験しても慣れません。それはタイルが躯体から浮き、剥落の一歩手前にあるサインだからです。
そんな時、最も信頼され、かつ現場で多用されるのが「アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法」です。今回は、単なるマニュアル通りではない、現場で汗を流して見えてきた「本当の施工のコツ」を凝縮して解説します。
現場で痛感する「浮き」の恐怖とこの工法の使命
外壁タイルが剥がれ落ちれば、重大な事故に直結します。張り替えがベストな場合もありますが、コストや見た目の維持を考えると、既存のタイルを活かしつつ物理的に固定するこの工法は非常に合理的です。
仕組みはシンプル。ドリルで穴を開け、そこから強力な[amazon_link product=”エポキシ樹脂”]を注入し、さらにステンレス製のピンを打ち込む。いわば、建物に「見えないボルト」を何本も打ち込むような作業です。
【実録】施工手順と現場で差がつく「プロのこだわり」
1. 穿孔(穴あけ):すべてはここから始まる
まず、振動ドリルで穴を開けます。ここで重要なのは力任せに押さないこと。タイルを割ってしまったら元も子もありません。現場では、[amazon_link product=”マキタ ハンマドリル”]などの繊細なトリガー操作ができる機種が好まれます。躯体に達したときの「ガツン」という振動の変化を指先で感じるのがポイントです。
2. 清掃:地味だが最も重要な工程
穴の中に粉塵が残っていると、樹脂が密着しません。ブロアーで粉を吹き飛ばすのですが、このとき防塵マスクは必須です。現場の「あるある」ですが、清掃を怠ると、せっかくの樹脂が粉と一緒に「玉」になってしまい、強度が全く出ません。
3. 注入:指先に神経を集中させる
[amazon_link product=”グリスガン”]を使い、エポキシ樹脂を注入します。ここが職人の腕の見せ所。スカスカと入っているうちはまだ足りません。奥から樹脂が詰まってきて、レバーを握る手が「ググッ」と重くなる。この手応えこそが、しっかり充填された証拠です。
4. ピン挿入:物理的な「楔」を打ち込む
樹脂が乾かないうちに、ステンレスピンを挿入します。ただ差し込むのではなく、少し回転させながら押し込むと、樹脂がピンに均一に絡みつきます。最後に、タイル表面に飛び出さないよう、奥まで確実に沈めます。
現場でぶつかる「3つの壁」とリカバー策
実際に現場を回していると、教科書通りにいかない場面に必ず遭遇します。
- 鉄筋に当たって進まない: 無理に抜こうとせず、一度穴を埋めてから数センチずらして再穿孔します。無理をするとドリルの刃が焼けて使い物にならなくなります。
- 樹脂が垂れてくる: 夏場の現場では樹脂の粘度が下がり、ダラダラと垂れることがあります。養生はもちろんですが、[amazon_link product=”パーツクリーナー”]を染み込ませたウエスを常備し、硬化する前に迅速に拭き取るスピード感が求められます。
- 打診検査での再判定: 注入が終わった数日後、[amazon_link product=”土牛産業 打診棒”]で再度確認します。あの「ポコポコ」音が消え、「コツコツ」という硬い音に変わった瞬間、現場監督としての安堵感は何物にも代えがたいものです。
メリットとデメリット:本音で語る
メリット
- 見た目が変わらない: 補修跡は目地のモルタルで隠れるため、マンションの美観を損ないません。
- 部分補修が可能: 必要な箇所だけをピンポイントで狙い撃ちできるため、コストパフォーマンスが高いです。
デメリット
- 範囲が広すぎると非効率: 壁一面が浮いているようなケースでは、張り替えたほうが早いし確実なこともあります。
- 「隠れてしまう」怖さ: 注入が終われば中身は見えません。だからこそ、施工者の良心と、工程ごとの写真管理がすべてです。
まとめ:建物の寿命を握るのは、小さなピンの一本
アンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法は、地味な作業の積み重ねです。しかし、その一本一本のピンが、数年後の剥落事故を防いでいると確信しています。
DIYで安易にできる作業ではありませんが、構造を知ることで、業者への依頼時や現場監理の視点は格段に鋭くなるはずです。建物を守ることは、そこに住む人の安全を守ること。今日も打診棒の音に耳を澄ませ、確実な一打を積み重ねていきましょう。
次に行えることとして、具体的な樹脂の必要量計算や、信頼できる補修業者の見分け方についてアドバイスすることも可能です。


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