モニターヘッドホンで音楽を聴く。最初はちょっと構えていたけど、いまは「帰ってくる場所」みたいになっている。派手に盛り上げるタイプじゃないのに、なぜか手放しにくい。理由は単純で、音量を上げなくても情報が入ってくるからだ。ボーカルの息づかい、ギターの弦が触れる音、リバーブの尾っぽ。そういう細部が、過剰な味付けなしにスッと届く。
とはいえ、モニター=正解という話でもない。鑑賞目的だと、選び方を間違えると「地味」「疲れる」「低音が薄い」と感じやすい。そこでこの記事では、モニターヘッドホンを音楽鑑賞に使う前提で、失敗しない選び方と、定番機の見分け方を体験ベースでまとめる。結論から言うと、音の傾向より先に“生活に合う条件”を決めるのが近道だ。
まず「モニターヘッドホンって何が違うの?」というところ。ざっくり言えば、音を気持ちよく“盛る”より、録音されたものを“そのまま出す”方向に寄せた作りが多い。だから、ミックスの粗も見えやすいし、逆に良い音源は驚くほど立体的に鳴る。ここがハマると、同じ曲を聴いても「こんな音入ってたんだ」と気づけて面白い。
ただ、モニターは全部フラットで同じ、というのは誤解だ。現場で定番の機種でも、キャラクターはけっこう違う。たとえば、密閉型の定番として名前が挙がりがちなSONY MDR-CD900STは、音の輪郭がわかりやすく、声や中域の情報を掴みやすい。いっぽうで、同じソニーでも海外でも定番のSONY MDR-7506は取り回しの良さや解像感で語られることが多い。最近だと開放寄りのモニターとしてSONY MDR-MV1の名前も聞く。こういう“系統の違い”を先に知っておくと、選ぶときに迷いにくい。
音楽鑑賞でモニターヘッドホンを選ぶメリットは、まず分離の良さだ。ボーカルとコーラスが重なっていても、塊にならずにほどける感覚がある。次に、音量を上げなくても細部が聴こえるので、長時間でも耳がラクになりやすい。私の場合、リスニング寄りの低音強めのモデルだと、作業中にだんだん疲れて音を下げることがあった。モニター系に寄せると、その“音量を下げたくなる感じ”が減った。派手さよりも、疲労の少なさが価値になるタイプだと思う。
逆にデメリットもある。ひとつは、最初の印象が地味になりがちなこと。低音の量感でテンションを上げる聴き方をしていると、物足りなく感じる可能性が高い。もうひとつは、密閉型は装着状態で低域が変わりやすいこと。眼鏡のツル、髪の毛、イヤーパッドのへたりで“密閉”が崩れると、低音がスカスカになったり、逆にボワついたりする。ここは試着で必ず確認したいポイントだ。
失敗しないために、音の好みより先に決めたいのが5つある。
1つ目は密閉型か開放型か。夜に家で聴くなら、音漏れしにくい密閉が無難だ。密閉の王道枠としてはaudio-technica ATH-M50x、もう少し軽めに入るならaudio-technica ATH-M40xやaudio-technica ATH-M20xも候補になる。開放型なら、広がりと抜けの良さを重視したい人に向く。鑑賞でも定番になりやすいところではAKG K702やAKG K701がよく話題に上がる。
2つ目は装着感。これはスペック表を眺めても決まらない。側圧が強いと、音が良くても30分で外したくなる。耳がパッド内に当たるかどうかも大事だ。店頭で試せるなら、3分聴いて終わりにしないで、いったん外して付け直して、頭を軽く振ってみる。装着がズレた瞬間に低音が変わる機種は、家に帰ってからストレスになりやすい。
3つ目はケーブル。意外とここで生活に合わなくなる。机の前で聴くなら長さや取り回しが効くし、動きながらなら絡みにくさが効いてくる。カールコードが合う人もいれば、邪魔に感じる人もいる。候補のひとつとして、折りたたみや携帯性が語られやすいSONY MDR-7506が刺さるケースもある。
4つ目は鳴らしやすさ。スマホ直挿しで完結したいのか、DACやアンプを足す前提なのかで選ぶ方向が変わる。開放型は“空気感”が出る反面、環境や音量の取り方に左右されやすい。密閉型は音量を控えめでも情報が入るモデルが多く、鑑賞用途では扱いやすいことが多い。
5つ目は耐久性と部品。イヤーパッドは消耗品だ。ここを交換できるかどうかで寿命が変わる。長く使うなら、パッド交換のしやすさや、ヒンジの丈夫さも見ておきたい。プロ用途で定番の機種は、ここが強いことが多い。
次に“モニターらしさ”を見分けるチェック。私は試聴で、まずボーカルの歯擦音(サ行)が刺さらないか、ハイハットが耳に残らないかを見る。刺さるなら、長時間で疲れる確率が高い。次にベースの胴鳴り。量があるかではなく、輪郭があるか。低音が「ドン」だけで終わるのか、「ドン…」と音程が追えるのか。ここが出ると、音楽が急に“上手く”聴こえる。
試聴は、いつも聴く曲→録音が良い曲→荒い曲、の順で回すとブレにくい。録音の良い曲で感動しても、荒い曲が全部つらくなる機種だと、結局出番が減る。逆に、荒い曲をほどよく許容してくれる機種は、日常の鑑賞に強い。あと、店頭の罠は音量。つい上げてしまうので、一度“普段の音量”に戻す。そこで情報が残るヘッドホンが、家で使っても満足しやすい。
定番機は、名前が売れているから定番というより、情報が多くて使い方が確立しているから強い。たとえば、密閉の定番として語られやすいbeyerdynamic DT 770 PROは、装着感や音の分離で支持されることが多いし、同じ流れで開放寄りに寄せるならbeyerdynamic DT 990 PROが候補になる。最近のラインなら、密閉のbeyerdynamic DT 700 PRO Xと開放のbeyerdynamic DT 900 PRO Xで方向性が分かれる。どれが上、ではなく、自分の生活に合うほうが“正解”になる。
もう少し日本の定番寄りで、解像感とバランスで語られやすい候補としては、YAMAHA HPH-MT8や、軽めに入りたいならYAMAHA HPH-MT5も名前が出る。Shure系なら、密閉モニターの流れでShure SRH840A、もう少しカジュアルに行くならShure SRH440Aも検討に入る。さらに、鑑賞寄りの開放定番として混ぜやすいのがSennheiser HD 560Sだ。モニター系の“見通しの良さ”を保ちつつ、音楽として聴きやすい落とし所を探す人がここに流れやすい。
買ってから“鑑賞用”に寄せるコツもある。まずは装着位置とパッドの状態。ここで低音も高音も変わる。次にイコライザー。足すより削るほうが破綻しにくい。例えば低音が膨らむなら少し引く、刺さるなら該当帯域を軽く落とす。モニターの良さを消さずに、聴き疲れだけ減らせる。
最後に、向いている人・向かない人をはっきり書いておく。モニターヘッドホンが向いているのは、歌や楽器の輪郭を追いたい人、音量を上げずに情報が欲しい人、長時間の作業や鑑賞で疲れを減らしたい人。向かないのは、とにかくドンシャリで気分を上げたい人、刺激がないと物足りない人。どちらが良い悪いじゃない。聴き方の問題だ。
迷ったら、用途→密閉/開放→装着感→鳴らし方、の順に決める。音の好みは最後でいい。そうやって選んだaudio-technica ATH-M50xでも、AKG K702でも、SONY MDR-CD900STでも、ちゃんと“自分の鑑賞”に寄ってくる。モニターは冷たい道具じゃなくて、音楽を丁寧に楽しむための近道になる。そこだけは断言できる。


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