DS920の容量が徐々に逼迫し、アクセス速度にも物足りなさを感じ始めた段階で、多くの人は「そろそろ新しいNASへ移行しようか」と考え始める。ところが、いざ移行を決意した直後に立ちはだかるのが、データとアプリをどう整理するかという問題だ。特にSHR(Synology Hybrid RAID)で複数サイズのHDDを混在させている場合、ストレージプールの再構築手順を誤ると、最悪データを失うリスクがある。実際に「2台の8TBから、4TBと6TBと2台の8TBへ移行したい」といった相談は後を絶たず、そのたびに「今のプールを壊さずに容量を増やせるのか」「アプリの設定は引き継げるのか」という疑問が浮上する。
変更前の基準として、DS920のメーカー公式情報にある仕様とサポート情報を残しておきます。
この記事では、DS920から別のNASへ移行する前に、データとアプリの整理で失敗しないための判断基準を時系列で整理する。まずは移行を考え始めた段階で見落としがちな前提を確認し、次に実際の移行作業中に起こりうるトラブルとその回避策、そして移行後に「やはり待てばよかった」と後悔しないための最終判断までを順に追う。
移行を考え始めた段階で確認すべきDS920の現状
DS920の買い替えを検討するとき、最初にやるべきことは「本当に移行が必要なのか」を冷静に見極めることだ。単に容量が足りないだけなら、HDDの増設や大容量ディスクへの交換で済む場合がある。DS920は4ベイモデルであり、空きベイがあればそこに新しいHDDを追加してストレージプールを拡張できる。また、SHRを利用しているなら、容量の異なるディスクを混在させても冗長性を保ちながら拡張が可能だ。ただし、追加できるのは既存の最小ディスク以上の容量のものに限られる。例えば現在2台の8TBでSHRを組んでいる場合、4TBのディスクを追加しても容量は増えない。このルールを知らずに「小さいディスクを足して様子を見よう」とすると、期待した容量が得られずに戸惑うことになる。
また、パフォーマンス不足が移行の動機なら、ネットワーク環境や利用アプリの見直しで改善するケースもある。DS920はデュアル1GbE LANを搭載しており、Link Aggregationを設定すれば理論上2Gbpsの帯域を確保できる。もっとも、実際の転送速度はクライアント側のネットワークやディスクの速度に依存するため、まずはDSMのリソースモニターでCPU使用率やディスク使用率を確認し、ボトルネックがどこにあるかを特定するのが先決だ。Synologyのダウンロードセンターでは最新のDSMやパッケージが提供されており、ファームウェアの更新でパフォーマンスが改善されることもある。
移行作業に入る前に外しておきたいリスク要因
「データはバックアップしてあるから大丈夫」と思っていても、実際に移行を始めると想定外のトラブルが起こる。ここでは、移行作業中に発生しがちな失敗と、それを避けるための事前確認ポイントを整理する。
データ整理とアプリ設定の移行方針を決める
DS920から別のNASへ移行する方法は、大きく分けて3つある。1つ目は「ドライブ移行」で、既存のHDDをそのまま新しいNASに移し替える方法だ。これは最もシンプルだが、新しいNASがDS920と同じかそれ以上のドライブベイ数を持ち、かつ移行元と同じファイルシステム(Btrfsなど)に対応している必要がある。2つ目は「Migration Assistant」を使う方法で、Synology NAS間でデータと設定をネットワーク経由で移行できる。この方法ならサービスを停止する時間を最小限に抑えられるが、移行先に同じかそれより大きいストレージプールを事前に作成しておく必要がある。3つ目は「Hyper Backup」などを使ってデータをバックアップし、新しいNASで復元する方法だ。アプリの設定まで完全に引き継ぎたい場合は、Hyper Backupの「アプリケーションバックアップ」機能を利用するか、あるいは各パッケージの設定エクスポート機能を使う。
Synology公式の移行ガイドでは、これらの方法の詳細と制限事項が説明されている。特に注意したいのは、移行先のNASが異なるDSMバージョンの場合、一部のパッケージや設定が引き継げない可能性がある点だ。移行前に、DS920のDSMバージョンと移行先のDSMバージョンを確認し、互換性を確かめておく。
HDD/SSDの互換性とメーカー推奨条件を再確認する
移行先のNASが決まったら、まず確認すべきはHDD/SSDの互換性だ。Synologyは公式サイトで互換性リストを公開しており、DS920で使用しているドライブが移行先でもサポートされているかを事前にチェックできる。特に、新しいNASがDS920よりも新しいモデルの場合、従来のHDDが互換性リストから外れていることがある。また、SMR(Shingled Magnetic Recording)方式のHDDはNASでの使用に適さない場合があり、WD Redの一部モデルでトラブルが報告されている。もし現在SMRディスクを使っているなら、この機会にCMR(Conventional Magnetic Recording)方式のNAS専用ディスクへの交換を検討するのも一手だ。
さらに、DS920はM.2 NVMe SSDキャッシュに対応しているが、移行先のNASがSSDキャッシュをサポートしていない場合、キャッシュ用のSSDが無駄になる。移行前に、現在の構成でSSDキャッシュがどの程度の効果を発揮しているかをDSMのストレージマネージャーで確認し、移行先でも同等の機能が必要かどうかを判断したい。
RAIDとバックアップを分けて考え、復旧手順を明確にする
NASの移行で最も多い失敗が、RAIDをバックアップと混同することだ。RAIDはあくまで可用性を高める仕組みであり、誤削除やランサムウェア攻撃からデータを守ることはできない。DS920でSHRを組んでいる場合、1台のディスク障害には耐えられるが、2台同時に故障すればデータは失われる。移行作業中は通常よりもディスクに負荷がかかるため、故障のリスクが高まる。
そこで、移行を始める前に必ず外部バックアップを取得しておく。Hyper Backupを使って外付けHDDや別のNAS、クラウドストレージにバックアップを取るのが確実だ。バックアップが完了したら、実際に復元テストを行い、データが正しく読み出せることを確認する。このとき、バックアップの整合性チェックを有効にしておくと、後々のトラブルを防げる。
また、DSMのログセンターでディスクのSMART情報やエラーログを確認し、移行前に潜在的なディスク障害の兆候がないかを調べておく。特に「再割り当てセクタ数」や「読み取りエラーレート」の値が上昇しているディスクは、移行中に完全に故障する可能性があるため、先に交換しておく方が安全だ。
移行作業中にトラブルが起きたときの切り分け手順
実際に移行を始めると、予期せぬエラーやパフォーマンス低下に見舞われることがある。ここでは、よくあるトラブルとその原因を切り分ける手順を紹介する。
ストレージプールの再構築で容量が増えない
SHRのプールを再構築する際、新しいディスクを追加しても容量が増えないという相談が頻繁に見られる。これはSHRの容量計算ルールに起因する。SHRでは、最大のディスク1台分が冗長用に割り当てられ、残りの容量が使用可能領域となる。例えば、2TBと4TBのディスクでSHRを組むと、使用可能容量は2TBになる。ここに8TBのディスクを追加しても、冗長用に8TBが割り当てられ、使用可能容量は4TBにしかならない。さらに、既存の最小ディスクよりも小さいディスクは追加できないため、ディスク構成を変更する際は、必ずSynologyのRAID計算ツールで事前に容量をシミュレーションしておく。
また、DSM 7.2.1以降では、ストレージプールの再構築中に「最適化」というプロセスが走り、完了するまでに長時間を要する。この間はパフォーマンスが低下するため、移行作業は時間に余裕があるときに行うべきだ。
アプリの設定が引き継げず、再設定が必要になる
Migration AssistantやHyper Backupで移行しても、一部のアプリケーションは設定が完全に移行されない場合がある。特に、Dockerコンテナや仮想マシン(Virtual Machine Manager)は、移行先のNASで同じネットワーク設定やストレージ構成を再現しないと起動しないことがある。Dockerを使っている場合は、docker-compose.ymlや環境変数を書き出しておき、移行先で同じ構成を再現できるように準備する。
また、Plex Media Serverのようなメディアサーバーアプリは、メタデータやデータベースのパスを手動で修正しなければならないケースがある。Synologyの公式サポートページでは、各パッケージの移行手順が個別に提供されているため、移行前に必ず確認しておく。
ネットワーク設定が引き継がれず、接続できなくなる
新しいNASに移行した直後、突然ネットワークから見えなくなるトラブルも多い。これは、DS920で固定IPアドレスを設定していた場合に、移行先のNASがDHCPで異なるIPを取得してしまうためだ。移行前にDSMのコントロールパネルからネットワーク設定をメモしておき、移行後は同じIPアドレスを割り当てる。また、ファイアウォールルールやポート転送設定も、移行先のNASで再設定が必要になる場合がある。
メーカー情報から外せる不安と最終判断の基準
移行が完了しても、「本当にこの選択でよかったのか」という不安は残る。ここでは、公式情報を基に判断材料を整理し、買い替えを急ぐべきか、あるいはもう少しDS920を使い続けるべきかの線引きを示す。
保証とサポート期間から見る買い替え時期
DS920は2020年発売のモデルで、標準保証は3年間だ。延長保証を購入していれば最大5年間まで延長できるが、すでに保証が切れている場合、故障時の修理費用が高額になるリスクがある。Synologyの製品ステータスページでは、各モデルのサポート状況が公開されており、DS920が現在も「販売中」なのか「製造終了」なのかを確認できる。製造終了モデルは、今後DSMのメジャーアップデート対象から外れる可能性があるため、新しいNASへの移行を真剣に検討するタイミングと言える。
移行先のNASを選ぶときのチェックポイント
DS920の後継として候補に挙がるのは、同じ4ベイモデルのDS923+や、より拡張性の高いDS1522+などだ。DS923+はCPUがAMD Ryzen R1600に変更され、M.2 SSDスロットがGen3 x2からGen3 x1に変更されている。また、DSM 7.2ではSSDキャッシュの柔軟性が向上し、SSDをストレージプールとして利用できるようになった。しかし、DS920で利用していたアプリの中には、新しいCPUアーキテクチャに対応していないものもあるため、移行前に各パッケージの対応状況を確認する必要がある。
一方、QNAPやASUSTORなど他社製NASへの移行を考える場合、データの移行は基本的に手動となる。SMBやrsyncを使ってデータをコピーすることは可能だが、Synology独自のアプリや設定は引き継げない。この場合、データの整理だけでなく、アプリの代替を探す作業も必要になるため、移行にかかる手間は格段に増える。
移行後に再発したときのために記録しておくべきこと
移行が無事に完了したら、次に同じような状況になったときのために、今回の手順と設定を記録に残しておく。特に、ネットワーク構成、ストレージプールのレイアウト、バックアップスケジュール、各アプリの設定ファイルの場所は、文書化しておくと後々のトラブルシューティングが格段に楽になる。
また、DSMの「設定のバックアップ」機能を使って、システム設定を定期的にエクスポートしておく習慣をつけると、急なNAS故障の際にも迅速に復旧できる。このバックアップファイルは、Hyper Backupで外付けディスクやクラウドに自動保存するように設定しておくと、さらに安心だ。
最後に、今回の移行で「ここを先に確認しておけばよかった」と感じた点を、NASの管理メモに追記しておく。例えば、「SHRの容量計算を事前にシミュレーションしていなかった」「Dockerコンテナの環境変数を書き出し忘れた」といった失敗は、次回の移行時に必ず役立つ。

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