日本を代表する光学機器メーカー、ニコン。その舵取りを担う徳成旨亮(とくなり むねあき)氏の半生は、エリート街道とは程遠い、泥臭くもドラマチックな「逆転劇」の連続でした。投資家から絶大な信頼を寄せられ、世界的なCFO(最高財務責任者)として名を馳せる彼の素顔に迫ります。
電気も制限された島での原体験
徳成氏のルーツは、福岡県北九州市にある人口わずか200人ほどの小さな離島、藍島(あいのしま)にあります。少年時代の記憶にあるのは、現代の日本からは想像もつかない不自由な生活でした。
「当時は17時から21時までしか電気が通っていなかった」
そんな極限の環境で、夜になればランプの火を囲んで過ごす日々。しかし、徳成氏はこの不自由さを「不幸」とは捉えませんでした。限られた資源の中でどう楽しむか、どう生き抜くか。この時の体験が、後にどんな苦境に立たされても「なんとかなる」と笑い飛ばせる、強靭な楽観主義の土台となったのです。
学者への夢を断念し、家族のために銀行員へ
慶應義塾大学へと進学した徳成氏でしたが、順風満帆な学生生活ではありませんでした。父親が病に倒れ、経済的な困窮に直面します。本来なら研究者を目指したかったという知的好奇心の塊のような青年でしたが、背に腹は代えられません。
「家族を養わなければならない」
その一念で、塾講師のアルバイトに明け暮れながら学費を稼ぎ、安定した収入を見込める三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)への入行を決めました。夢を諦めた悔しさを、彼はそのまま仕事への凄まじいエネルギーへと転換させたのです。
銀行員としてのスタートも、華やかな国際業務ではありませんでした。町田支店での初仕事は、年末年始に地元の寺社を回り、お賽銭の小銭をひたすら数え続ける作業。指先を真っ黒にしながら硬貨を仕分ける日々の中で、彼は「お金の重み」と「現場の息遣い」を肌で学んでいきました。
世界の投資家から突きつけられた「問い」
三菱UFJフィナンシャル・グループのCFOに上り詰めた徳成氏は、世界中の投資家と対峙することになります。そこで投げかけられた言葉が、彼の経営哲学を決定づけました。
「日本企業には技術も誠実さもある。だが、アニマルスピリッツ(野心的意欲)はどこへ行ったんだ?」
数字だけを管理する「計算係」ではなく、リスクを取って未来を創る「戦略家」としてのCFO。その重要性を痛感した彼は、後にニコンへと電撃移籍します。[amazon_link product=”CFO思考”]という著書にまとめられた彼の哲学は、単なる財務テクニックではなく、こうした魂のぶつかり合いから生まれたものです。
ニコンでの変革:人はコストではなく「資産」
2020年にニコンへ加わった徳成氏は、まさに「外様」の立場から組織の壁を次々と壊していきました。特筆すべきは、就任から間もない期間に断行した異例の賃上げです。
「人はコストではなく、価値を生み出す源泉である」
この信念に基づき、財務のプロでありながら、真っ先に「人への投資」を優先したのです。これは、かつて自身が経済的苦境で夢を諦めかけた体験、そして島での助け合いの精神が根底にあるからに他なりません。
多彩な素顔と「感性」の経営
経営者としての顔を持つ一方で、徳成氏はフルートを愛奏し、ペンネーム「北村慶」として執筆活動も行う文化人でもあります。[amazon_link product=”フルート”]を奏でる際に必要な「調和」と「繊細な感覚」は、精密機器を作るニコンのモノづくり精神と深く共鳴しています。
現在は2026年4月からの新体制発表もあり、現場出身の大村氏との「2トップ体制」でさらなる飛躍を目指すニコン。徳成氏が島育ちのハングリー精神で注入した「アニマルスピリッツ」は、確実に老舗企業の血を熱くさせています。
光の技術で世界を変える。その中心には、誰よりも苦労を知り、誰よりも人間を信じる一人のリーダーの情熱が宿っています。
次は、徳成氏が主導するニコンの最新事業戦略や、次世代の光学技術についてさらに詳しく調べてみましょうか?


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