病棟でモニターを見ていて「QRSがやけに小さくて読みにくい」と感じたら、まず“機械的に小さく見えているだけ”の可能性が高いです。理由は単純で、モニター心電図は「不整脈を拾いやすくする設定」や「ノイズを消すフィルタ」が優先されやすく、電極の接触が少し悪いだけでも振幅がスッと落ちるから。フィルタ設定によって波形の振幅が歪むことがあるのも、地味に落とし穴です。(gehealthcare.com)
とはいえ、設定や接触を整えても小さいままなら“本当に低電位”の可能性も残ります。低電位(low voltage)は、四肢誘導でQRSが5mm未満、胸部誘導で10mm未満などの基準がよく使われ、心嚢液貯留・肺の過膨張(COPD/肺気腫)・肥満・甲状腺機能低下などが原因になり得ます。(Life in the Fast Lane • LITFL)
ここからは、現場でやる順番のまま書きます。最短で復旧させるコツは「表示設定→電極/皮膚→リード線→それでも小さいなら評価」の流れです。
1) まず“表示の問題”を潰す:感度(ゲイン)と表示スケール
結論、いちばん手っ取り早いのは感度を上げることです。波形が小さくても正常所見を満たしていれば異常とは限らず、見やすくするために感度を調整してよい、という考え方が現場向き。(ナース専科)
補足すると、モニター機種によって「×1/×2」「gain」「感度」「mm/mV」の表示が違います。普段の基準に戻せるよう、変更前の設定を一度メモしてから触ると事故りません。
あわせて確認したいのがフィルタです。モニターは“波形を見やすくするためのフィルタ”が入ることがあり、設定次第で振幅が小さく見えたり、波形が丸くなったりします。(gehealthcare.com)
「診断用(diagnostic)」と「モニター用(monitor)」の切替がある機種は、まずモニター用で不整脈監視を優先し、必要時だけ診断用に寄せる、くらいの運用が安全です(施設ルール優先)。
2) いちばん多い原因:電極の接触不良(汗・乾燥・ズレ・皮脂)
QRSが小さいとき、体感で一番多いのは電極です。汗や体動でズレると接触抵抗が上がり、振幅が落ちやすい。電極のズレや剥がれが波形評価を難しくする、という注意点はよく整理されています。(スーパーナース)
やり方はシンプルで、貼り替え前の一手間が効きます。
- まず汗・皮脂を軽く落とす:アルコールがしみやすい人もいるので、皮膚の状態に合わせて アルコールフリー清拭シート(皮膚清拭) みたいなものでサッと拭くと、次が安定します。
- 角質が強い人は前処理:電極が浮きやすい肌だと、貼り直してもまた崩れがち。そういうときは スキンプレップ(角質除去パッド/皮膚前処理) を軽く使うだけで、波形が“太く”戻ることがよくあります。
- 電極はケチらず交換:粘着が弱い、ジェルが乾いてる、端が浮いてる…この辺りは目視でもだいたい当たるので、迷ったら 使い捨て心電図電極(モニター用) に替えてしまった方が早いです。
- どうしても浮く場所は固定する:発汗部位や動く部位は、上から軽く押さえるだけで安定します。皮膚トラブルに配慮しつつ、必要最小限を 医療用テープ(電極固定・リード固定) で留めると、QRSの“細さ”が落ち着くことが多いです。
補足。電極を貼り替えるときは“同じ場所に貼り直さない”のが基本で、皮膚への負担も減ります。電極貼付の注意(汗でのゆれ、貼り替え、皮膚トラブル)をまとめた資料でも、貼付部位をずらす話が出ています。(CV-NET信州)
3) リード線・コネクタ・断線を疑う:引っ張りは敵
電極を替えても小さい、ノイズも混ざる。そんなときはリード線まわりです。コネクタが半抜けだと、波形が“薄くなる”ことがあります(完全にオフだとアラームが鳴くので逆に気づきやすい)。
この段階で役立つのが、予備のリード線。例えば 心電図リード線(3誘導) や 心電図リード線(5誘導) に差し替えると、原因切り分けが一気に進みます。
あと地味に効くのが“引っ張り対策”。寝返りや移乗でケーブルが引かれると、電極はすぐ負けます。ベッド柵や衣類に軽く逃がして リード固定クリップ/ケーブルホルダー(引っ張り対策) を噛ませるだけで、QRSが安定して「小さい問題」が消えることもあります。
4) 新生児・小児は“そもそも小さく見えがち”を前提にする
成人用の電極や貼付位置の感覚でやると、波形が取りにくいケースがあります。体表面積が小さく、動きも多いので、サイズや粘着が合うものに寄せるのが近道。必要なら 新生児・小児用モニター電極 のような小児向けを使うと、電極が“勝手に浮く問題”が減ります。
補足として、単誘導やウェアラブルでも電極位置で信号品質が大きく変わることは研究でも示されています。要は「位置と接触」が根っこです。(PMC)
5) それでもQRSが小さい:本当に“低電位”か、危険サインか
ここまで整えても小さいなら、次は“状態として小さい”可能性を考えます。低電位は、心嚢液貯留が重要原因として挙げられ、頻脈+電気的交互脈(electrical alternans)などが揃うと緊急評価が必要、という整理があります。(Life in the Fast Lane • LITFL)
また、心嚢液・胸水・肥満・肺の過膨張など、心臓と電極の間に「電気を弱めるもの」があると振幅は落ちやすいです。(ecgstampede.com)
現場での目安はこんな感じです。
- いつもより急に小さくなった/急に見えにくい
- 血圧低下、呼吸苦、冷汗など“全身の変化”が同時にある
- 頻脈が続く、波形が交互に大きく小さくなる気がする(電気的交互脈が疑わしい)
このあたりが重なるなら、「モニターの設定」だけで片付けず、上級者や医師に早めに共有してください。ここは慎重でいいです。
6) ついでに覚える:ジェルで“復活”するパターンもある
救急外来や健診の流れで、肌が乾ききっている人、電極が乗りにくい人もいます。そういうとき、状況に応じて 導電性ジェル(心電図用) を使うと波形が持ち上がることがあります。もちろん施設の手順が優先ですが、「乾燥×接触不良」の時短には効きやすいです。
まとめ:最短ルートは“設定→電極→線→評価”
QRSが小さいとき、まずは感度(ゲイン)とフィルタを確認し、次に電極の貼り替えと皮膚前処理で接触を作る。それでもダメならリード線や引っ張りを疑い、最後に低電位としての評価へ進む。これで、だいたいの「小さくて読めない」は片がつきます。


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